色々

unbirthday presents

杜の奇跡8で、われらunbirthday presentsはオフセット+コピー本を予定していましたが、
オフセットの方が入稿できなかったのでコピー本のみです。
ごめんなさい。


ところでわたしはunbirthday presentsよりunhappy birthday presentsの方が好きなんですが・・・

お詫びします。

脱稿できたので、宣伝用に一部掲載。


わたしが寄稿したのは短編集で、その七つの内三番目に短い奴。
確か一、二年前の高校時代に書いたもので、多少手直ししましたが、まぁ、直さない方がよかった、とか。
全体の文字数は36388文字で、この作品は2347文字。
ご批判として、ずらずらと文字が並んでいるだけ、冗長、読みづらい、などいただきました。
うん、これだけみてもわたしの文章の欠点は瞭然ですな。
自分でも、説得力のかけらのないボーヤが言いたい事言ってるだけの感はあります。
文学フリマでのサークル情報についてはまたいつか。あるいは載せないかもしれません。
他のメンバーはみんな年上で、わたしよりレベルが高いのは確かだと思うので下の習作を読んでも見捨てないで手にとってあげてください。



執筆中のBGMは「Princess Bride!」歌:KOTOKO収録元:「プリンセスブライド」
ありがとうKOTOKO、この曲がなかったら完成しなかった。
長いので注意。

「明示される展望と絶望」


やさしい人でした。
それに良い人でもあったと思うし、本人が言うには、悪い人でもあったのでしょう。


断れない性格の人でしたから、適当に班長に祭りあげられるのもしょっちゅうで、クラスのかわいくないせいで疎まれてるといった感じの(直截的に表現してブスの)人を、他の班長たちから押し付けられたりもしていました。
そんな時わたしは、あーあ、またエジキになっちゃって、と要領の悪い彼を同情とともに眺めていたのでした。
ところが彼は、そんな人たちを別段差別している様子はありませんでした。疎んでいる人々にしたって、差別という感覚はないのかもしれませんが、とにかく彼は人々が敬遠するような人とも、分け隔てなく接するのです。
《ねえ、どうしてあなたは、そんな風に彼らと関わり合えるの?》
ある日、私は訊ねました。
 彼は、ピンとこない表情ながらも、
《だってそんなことをする理由がないだろう。》
 と答えました。
《だって、》
私は意気込んでいいました。なぜなら、私だって彼らを疎む側の人間だからです。私が気持ち悪さを感じながらも、こちら側で頑張ってるっていうのに。それを何でもないようにいわれては私の立つ瀬がありません。
《だって、醜い物を見た時に、汚いものを見た時に、目を逸らしたくなるのは仕方の無いことでしょう。》
彼は少しの間悲しげに微笑むと、すぐいつもの、自然すぎて逆に不自然なぐらい無邪気な笑顔を見せて。そうだね、そうかもしれないね、と言いました。
私はなんだか毒気を抜かれた気がしましたが、
《そうでしょうなのになぜ。》
ここで退く気にはなれません。
《君は、自信があるんだね。》
えっ、と私は呆気に取られてしまいました。
どうして私に自信があるという話になるのでしょう。
彼はかまわず続けます。
《だってそうだろう。彼らよりも自分が優れていると、少しの疑問も挟まずに考えるからこそ、そう感じるんだよ。それってつまり、自分に自信があるってことだろう。》
私は、確かにそうかもしれないと一方で素直に感心しながらも、同時になんて的外れなことを言っているんだろう、という気がしてなりませんでした。だってこの人はクラスで、引いては学年で一番人気のある男の子なのですから。それは優しい彼の性格だけではありません。頭の良さ、運動神経のよさ、女の子だったとしても美人の部類に入る中性的で端整な顔立ち。
そうでなくとも、私は彼に恋しています。


この人は言いました。彼らを疎むのは私たちが自分に自信があるからだと。では、あなたは自分に自信がないというのでしょうか。あなたのどこが、普通人の私ですら疎んでいる彼らに劣っているというのでしょうか。
私は言いようのない怒りに満たされました。
あなた、あなたは……、
《僕はね。》
怒りで口の回らない私に先んじて、彼は言いました。
《僕は自分のことだから知っているよ。己の醜さも、汚らわしさも、罪深さも、愚かさも、力の無さも、人の悪さも、何もかもね。
死すべきっていうのは僕のためにある言葉だ。業というものを抱え込んで余りある。自分のことだもの知っている。知っていて、僕はそれを認めることだけはできる。だから、それだからこそ、他人を自分より劣っているとは思えない。だって自分が世界で一番の壊れ物だってことをよく知っているから。
僕の過去は過ぎた事だと片付けるには余りにも罪深く、あまりにも忌まわしい。
もちろん僕は醜く汚らわしく罪深い存在だから、いつまた人を貶めようとするかわからないけどね。これからだって誰かを傷つけて生きていくだろうけれど、それはその誰かが劣っているからじゃない。僕が卑しい人間だからだ。》
そう言って彼は片目を瞑りました。
それは可愛らしい顔をした可愛らしい行為なのに、なぜかとてもぎこちなく、奇妙なものに見えて、全然似合っていないと感じました。
気がつくと、私の頬には涙がつたっているのでした。


やるせない気持ちでした。もう、どこに怒りの矛先を向けていいのかわかりません。いや、そもそも私は今、果たして本当に怒っているのでしょうか。むかむかしているのは確かです。でも、なにかが許せない、腹を立てているというわけではないのです。それよりは、鬱積した嘆きが方向性を失って渦巻いているかのような。たぶん、そのエネルギーは自分に向かうべきものなのでしょう。でも私は深く考えるのを止めました。だってそれは当然です。


考えたら認めることになるでしょう? 
自らの愚かさを。
思い知ることになるでしょう? 
自らの矮小さを。


そうなったら、私たちは生きてはゆかれないのです。誰もが彼のように、しゃんとして生きているわけではないのです。宵越しの銭は持ちません、ではないけれど、みんなその日を何とかやり過ごすので精一杯なんです。


彼は言います。僕は過去に自分を卑下するだけのことをしたのだ、と。でも私にはそんな自分の過去を、見つめ返えすだけの勇気すらないのです。
私は彼の犯した罪がどんなものなのか知りません。それは大罪なのでしょうか、許されざるものなのでしょうか。
しかし彼の決意というものは、そんな罪の大小とは関係のないように思われます。法で罰せられるのでなく、社会から放逐されるのでなく、あれほどに己を律することで罰とできるのは間違いなく彼の強さがゆえです。


嗚呼、美しさとはどこにあるのでしょう。
十人が十人とも口を揃えて美しいと言うであろう彼でさえ、自身の醜さに耐え難いという。
私から見て崇美に値する彼の清廉潔癖な精神でさえ、愚かで汚らわしく矮小であるという。
その言葉を信ずるなら、この世界に真に美しいのものなど一つもなく、この宇宙に絶対といえる精神など一つもない。


これをもって絶望というのだろうと、私はかように涙を流したのです。