比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)

愛が人間をかくも変えるとは考えるだに恐怖である。僕の前に座っているこの男、マカロンやらレモネードなどと気軽に語っているが、もっと幸せだった頃にはクラリッジの給仕長に、舌平目のシャンピニオン添えグルメ風をシェフにきっちりどう料理してもらいたいか弁舌を振るい、その通りでなければそのまま皿を突き返すなどと言っていたものなのだ。恐ろしい、あまりにも恐ろしい。

昨日書いたような二人の身分による主従の関係性なんてものは、少なくとも物語上は問題にならないのであって、そのような設定なのだと割り切ってしまうのが賢いのだった。それに比べれば、主人公は奇抜な服装をしたがっては執事の不興を買い二人の間には緊張が漂うのだ、といった方がずっと人物に着目した二人の関係性を言い表している。
主人公もまた、それほどまでに滑稽な道化に徹しているわけでもなく、執事からは知性の欠片も見られないといわれる彼であるが、その主観の文章は明るくも前向きなイギリス青年の絶妙な語り口で述べられており、悪くない。彼の財力については謎だが。
執事もまたその存在について多く知りうる所にないが、どうも過去には了解を得た(婚約した)女性が多く居て結構好きに生きているらしいし、従者たる執事の職にかなりのプライドを持っているようであった。どうして彼が主人公の執事をやっているのかは謎だが。
しかしイギリス人は恋多く賭け事が好きなんだなぁ、という印象だ。
私は賭け事が嫌いだし、どちらかといえば一途な恋が好きだし、この本は面白いのだがユーモアといわれるとピンと来ないのでシリーズのほかの巻はいいや、読まなくて。と思ったら、全3巻であと一冊だけなのか。うーん。

比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)

比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)