色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
乱れなき調和する共同体であった仲間たちから突然"切られた"多崎が16年越しに仲間たちを巡礼する物語。面白かったです。
発売前はもちろん、発売後も(その販売部数と比較して)あまり評判を聞かなかったので面白く無いのか内容が特殊なのかと想像していましたが、ちゃんと面白かったです。色々興味深い考察も出ているみたいなので調べてみたいと思います。
思い立って展開を模索しながら書き始めた作品ということで、世界の終わりと同じように着地点があまりしっかりしてない、というか言い訳がましい感じがするけど、巡礼の旅ということで仲間たちにひとりずつ会いに行って、話を聞いて過去が明らかになっていって、段階を踏むことでまとまりを持って読めるので読む側もそれほどストレスなく。複雑で厄介事にまみれた世事に比べて、村上春樹の文章はやはり癒されますからね。
登場するトピックとしても、多指症と指の欠落とか仏文科の女の子じゃないけど死とか癒しの物語とか昔ながらのモチーフも多いのであれこれ考えながら再読するのも面白そう。時系列表は作らないとね。
いつも思うけど、村上春樹の文章や主人公に憧れる人は作品を読む時間を使って主人公のように水泳したりランニングしたり水をたくさん飲んだりした方がいいんだろうけど、小説読むほうがたのしいし楽だもんね。
内容的には、それはどうなのだろうかと思うところも多々あって、例えばシロの死について[殺したのは僕であり君である、ある意味では」いうような言い様があって、1Q84のような神秘性のある話ならともかく、ファンタジー要素のない中で話が進んできて終盤でそれを言われてもちょっと受け入れがたいかな。主人公が駅を作る仕事ということの関連でオウムのテロの話も出てくるけど、突然別の作品の話をされぞという感じがした。
これまでの作品でフィンランドが出てきたことはあっただろうか? 最近フィンランドがクローズアップされてるようで良いですね。
沙羅は何色なのでしょうか? ワンピースから緑色がイメージされていましたが沙羅と言えば沙羅双樹、「沙羅双樹の花の色は盛者必滅の理をあらはす」とも言います。或いは、釈迦が入滅の際には、この木が枯れて鶴の羽根のように白くなったとも言われているそうです。妄想が膨らみますね。
全体に読みやすく、聴きやすく、村上春樹であり、36歳のと集うオタクが主人公でもそれは変わらないのだった。よかった。
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/04/12
- メディア: ハードカバー
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