ドグラ・マグラ

nanako17girls さんやugaya40 さんからご紹介いただいたドグラ・マグラ読了。
話は、精神病棟の病室で目覚めた主人公が自分という存在がどこのだれなのかわからないところから始まり、やってくる若林教授から自分が精神病学会ひいては世界に重大な衝撃を与えるであろう学説の中核をなす症例であり、主人公が自分の名前を思い出すことが如何に重大であるかを聞かされ、名前を取り戻す手がかりとして主人公の過去にまつわるであろう驚くべき出来事、若林教授の学説について見聞きする。資料を読み終えるとそこにいるのはこの学説の中心をなすもうひとり正木教授がそこにいて、さらに……。後半は探偵小説っぽく驚くべき真実に迫る。

夢野久作の様々な可能性を結実し、世界の文学にも系譜なき地位を確立した一大幻魔怪奇探偵小説。34年間地底にゆるめき燃え続けてきた精神の鬼火が、今や…云々(図書館のバーコードで読めない)
 
息子が「ドグラ・マグラ」という本を持ってます 表紙のイラストが怪しげです 裏表... - Yahoo!知恵袋

興味は以前から持っていた所、ちょうど時間もあり上記参照のブクマを見た折に触れ読もうと決意したわけだが、残念ながらというか、Yahoo!知恵袋のベストアンサーにあるような文章の繰り返しもなければ魔道書じみたおどろおどろしいものもなく恐怖もなかった。嬉しい誤算というか、探偵小説の部分がかなりしっかりして面白かった。精神病の学説の部分は序盤中盤とかなりの分量で述べられているが、心理遺伝であるとか脳髄は物を考える所ではないとか、そうした部分にはそれほど心は惹かれなかった。呉家に伝わるという如月寺に保管されていた巻物の話あたりから、物語はぐっと身近になって面白くなった。
あとこんな有名な小説どこに行っても書庫になるなんて、なんて図書館は使えないと思ったけど、読んだら放送禁止用語のオンパレードで止む方なしの感は感じた。

巻頭歌
胎児よ
胎児よ
何故躍る
母親の心がわかって
おそろしいのか

序盤の中核となるのが精神病学説であって、これがどういうものであるかというと心理遺伝、脳髄は物を考えるところに非ず、胎児のみる夢である。つまり脳はからだの各器官からの反応を介する電話局の働きに過ぎず、人間が物を考えるのは霊魂であるという。この霊魂は先祖より代々人類が受け継いできたものであり、先祖の咎、性癖、などなどは子々孫々に受け継がれ、また人類の記憶は母体において胎児が尻尾が生えたり水かきができては消えて人間の姿に近づくのと同様に、記憶も胎児がみる夢として再現されている、という。
この一滴の真実に嘘を織り交ぜて真実性ある逸脱した思考を作り上げていくというのは見事ではあるが、突っ込みたい所は突っ込んでしまう。脳が考える所でないのなら結合双生児の場合は一人格ということになるのかとか、心理遺伝というが遺伝が行われるのはどの段階においてなのか(文中には先祖の死亡時の記憶が遺伝された記述があり、通常の遺伝のように生殖時でないのは間違いない)このあたりの説明がない。
それに書かれてからだいぶ科学も進歩しているしね。なので精神病学説の部分については流。
心理遺伝を利用した犯罪が行われた所に迫るあたりから探偵小説としての本領がある。
人が人を操り犯罪を犯させるというのはままあるが当時としては珍しくさらにそれに心理遺伝がかかわるというのはまさに驚嘆すべきだったのではないか知らん。
 
あとラノベとかだと主人公の得意な遺伝子めあてに女の子たちが集まってきてドタバタコメディが始まるみたいな話がよくあるけど(まぶらほ)、この話は得意な心理遺伝をもった主人公に恐ろしい精神学者が二人集まったわけで構図としては一緒だなと思った。まあそんなこというとみも蓋もないけど。。
長崎カステラが食べたい
時計の音は子供の頃うるさくて仕方がなかったのを思い出した。最近じゃ気にもならないけど、こういう感性は大事だな。
そういえば作中にも精神病者が書いたドグラ・マグラという小説が出てきて、内容はこの小説とはだいぶ違うようなので意図は不明だが、そういう遊びもあった。
まあこんなところか・・・系譜なき地位というのはどうだろう。確かにこんなぶっ飛んでる差別にとんでも学説満載の書き下ろし小説はそもそも書けないというのもあると思うが。でも探偵小説としては実にしっかりしてて読み応えのある物語であったのも事実だ。

夢野久作全集 4

夢野久作全集 4