2

 場が静まる。
 彼女は静かに口を開いた。
「愛してる」
 新人さんは大き過ぎも小さ過ぎもしない、この場に居る全員にだけちょうど届くような声で言った。あ、すごい。正解だ。この愛してるは正解だ。「愛してる」次にそう言ったのは僕の後ろに居た先輩の役者だった。でも言えてなかった。それは正解じゃない。端の方に座っていた別の役者の先輩も「愛してる」と言った。言えてない。ぜんぜん違う。そうじゃないでしょう。僕もたまらなくなってい自分も「愛してる」と言った。言えなかった。あれ。違うな。どうやって言えばいいんだ今の。

 キリンの首が伸びたのは、首の長いキリンが生き残っただけの、ただの結果でしかない。だけどそれをあえて穿って表現すれば、こういう言い方になる。『キリンの首は、高所の葉を食べるために進化した』。

 とても面白かった。
 創作するということの話。役者志望の男が人気の劇団を志望し、絶望し、諦めきれず、しかし天才と出会い映画を作ることになって、なんだかよくわからないことになる話。
 この「2」という名前の558項の小説は、著者の処女作である[映]アムリタの続編といっても良いし、著者がこれまで同文庫で出してきた作品の集大成といっても良いと思う。登場人物も被ってくるから、先に既刊を読んでいないと、内容についてこれない部分があるかもしれない。アムリタというインド神話に登場する神秘的な飲料にあるように、あるいはインド映画がそうであるように、著者はこの作品で、読者を喜ばせ怒らせ哀しませ楽しませたい感動させたい、という気持ちが処女作の時より明確に伝わってくるようだった。
 一番すごい映画とか一番面白い小説とか死なない人間とかパーフェクトな友達とか、そういう作品ばかり書いてきて今回も御多分にもれず最高の創作であるし、中盤以降天才の行動突飛な行動に引っ張られて行ったり、利己的な遺伝子等の引用しやすい進化論の話が続くのもいつものことである。読者の期待をいい意味で裏切っていく手法もいつもどおり切れ味良かったし、内容的にも著者の描きたいことを書いてるんだろうなーという感じでたのしい。しかし、皮肉的な笑みを浮かべて言うと、作中の天才最原最早に比べると著者はまだまだ甘いのではないですかね。作中で映画をとる話であるように、撮る側と見る側がいて両者を最高の形でコミットする、心動かすことが必要だとして、最早はああいう形で解決を試みたのですが、著者様はまだまだですね。特にラストなんかはあまり私のお気に召しませんでした。もちろん、最原最早的に言うのであれば、そう思う事自体が著者の狙い通りに心動かされた結果ではないとは言い切れないのでしょうが。これからも一層心動かされる作品を書かれること祈念いたします。




2 (メディアワークス文庫)

2 (メディアワークス文庫)