ジェノサイド

 実家に図書館から借りた本が転がってたので読んだ。
 アフリカに発生した新人類に現人類(というかブッシュ当時のアメリカ)が抹殺を試みる話。
 サイエンス・フィクションパラサイト・イヴとか)と戦争小説(伊藤計劃とか)を混ぜた感じ。
 サイエンス面は設定が細かくてすごい勉強して書いたんだなーと思ったし、戦争面も虐殺器官に迫るような書きぶりであったし、描かれる政治も日本の知識層の各方面に十分配慮したもので受けがよさそうだった。
 人物観が博愛主義なのかな。最後までどうしようもなく新人類抹殺を命じる無能なアメリカ大統領も、そういう性格になった考察とか、その責任の重圧を彼一人に負わせるのが無理のある話なのだみたいな釈がついてたし、少年兵にしたって自分の村から攫われて人を殺すまでの描写がそうだし。でも傭兵部隊にいた日本人は、あの舞台に引っ張られた必然性も説明されなかったし、ああいう性格になった十分な説明もなかったな。そして途中で死んで感動のエンドには含まれなかった。博愛主義ではないな。
 そもそもこのニックは、ほんとうにどうして登場したんだろう。性格が悪く、チームに不和をもたらし、迫り来る少年兵を狂ったように撃ち続けて、チームリーダーに射殺され、同じチームのもう一人の殉死者とは違い埋められるもしなかったニック。新人類がいるアフリカの村についた時、彼らは新人類側から名前を呼ばれて、ニックは「そしてニック」と最後に「そして」までつけられて呼ばれた。だから私はニックはこの部隊に配属になった強い必要性があって、のちのちそれが説明されるものだと思ったのだけど。読み終えたところだとこのニックは、戦争責任を認められない日本人とか現代のネット右翼とかの役割を持った存在で、だからこんな扱いで途中で死んだようにしか思えないな。深く考察すると違うのかもしれないけど。やっぱり博愛主義ではないな。
 この本に水を差すとしたら現実のほうで、あの感動のラストも、竹島問題等で冷え込む今の日韓情勢下で読むと陳腐に感じられてしまうのが残念ですね。描き用によっては「韓国の青年」ではなく個人に立脚した別の見方にもできたのでしょうが。

ジェノサイド

ジェノサイド