ハンスの林檎

 2005年と2006年は「日本におけるドイツ年」ということで色々な催し物、特集番組がありました。
 それつながりで中国・青島で日本軍に破れ、徳島・板東に移送されたドイツ兵捕虜約1000名の話。集番組でも良く取り上げられ、独語の授業で視聴させられました。
 後進国として欧米列強に追いつきたい日本は捕虜を人道的に扱うことでその度量を見せた、として史実に残っている事件で、まぁ過去の日本の美談として持ち出しやすい話です。ですが、私が小説を読んだ感想としては、別に美化しようとしたり歴史的事柄として誇張しているわけではなく、ドイツ人の視点から彼らが如何に自由を勝ち取るために捕虜と身を伍してからも戦いを続けたか、日本人との関わりはどうであったかを、フィクションをたぶんけっこー織り交ぜながら興味深く書かれていると思います。第九はやっぱりドイツ人の精神の根底なんですね。文章はドイツ人視点として違和感ない。どうしたらこんな風に過去の異人さんの思考なんてトレースできるのでしょうね。想像力ってすごいな。
 個人的には、物語が現代から始まって当時の話に入って、当時の話で終わってしまうのがちょっとどうかと。形式として、現代で『ハンスの林檎』という謎を掲示して過去の話でその謎を解く(謎を解くのはメインではなくて触りでしかないのだけど)、なので過去のままで話が終わってもいいのは理解できる。でもやっぱり現代に話が帰ってくるとか、後日談も入れて欲しかった。捕虜がその後どうなったのかも気になるし、芳一くんがどうなったのかも気になる。
 ・・・これは自分で調べろということか。
 

ハンスの林檎

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