know

超情報化対策として、人造の脳葉“電子葉”の移植が義務化された2081年の日本・京都。情報庁で働く官僚の御野・連レルは、情報素子のコードのなかに恩師であり現在は行方不明の研究者、道終・常イチが残した暗号を発見する。その“啓示”に誘われた先で待っていたのは、ひとりの少女だった。道終の真意もわからぬまま、御野は「すべてを知る」ため彼女と行動をともにする。それは、世界が変わる4日間の始まりだった―

 CPU的な情報処理体である電子葉を脳に埋め込み常に世界と相互アクセスする人達の暮らす未来において、情報庁の官僚連レルは、画期的で優れた処理能力を誇る量子葉を持った知ルと会う。量子葉を狙う競合他社とバトりつつ、知ルと同等の力を持つ問ウと対面し、二人の対話によって知識欲の果てにある新たな世界の扉を開く。
 野崎まどという稀有な作家のハヤカワ文庫の新作。
 電撃の方でやっていた天才の話とは一線を画する(ギャグがない的な意味で)、SF。
 とても面白かった。文庫で購入したが、一ヶ月ほどでKindleで出ていたようなので、そちらで購入しても良かったかもしれない。
1 描かれる未来の世界がとても魅力的である。脳に情報処理体(情報処理体能力と脳をネットに直結する)を持つのは物凄く魅力的だ。私も得る知識を外部に委託して生きてみたい。
2 神話とかの話が多い。知識欲のその果てに至るために、情報化されていない寺院、僧侶とかの話を聞く。知ルは新しい世界の扉を開くために量子葉をフル活用する。それは独自の処理体と言うより生まれたばかりから埋め込まれたために脳を育成する役割を持ち、脳のサーキット構造を変え常人とは異なる活性の仕方を持つようになる。さながらそれは輪を描いて回る炎の剣のようと説明される。輪を描いて回る炎の剣とは、生命の木を守護するケルビムとその一方であるという。日本神話も出てくる。
3 オープンな価値観。個人的に読んでいて一番感じたのはこの項目で、この世界には個人情報の取扱いが現代とはかなり異なっている。基本的にすべての事象は情報化され、それにアクセスできる権限がクラスとして割り当てられている。連レルならクラス5、知ルならクラス9相当というように。今でも、すべては情報化されるのが原則であり、あとはそのフィルターの問題であるという人もいるが、基本的にはそもそも情報化されない事象やスタンドアローンで運用されネットに接続されない情報があったほうが安心であると思う。なぜなら、知ルのように凄腕のクラッカーがいると流出の懸念が残る。
 世間的にもこの小説はなかなか評判が良いようであり、野崎まどを知る読者からも電撃の系統とは違った小説が描かれたことに安心を得られたところであると思う。

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)