遠く6マイルの彼女
「夕日、綺麗っすね」
俺は言った。
「そうね。何だか、思い出話ばっかりするみたいであれだけど、究くんは朝日より夕日が好きだったわ。その理由がね、おかしいの」
全然知らない話だったので俺は興味を持った。前だったら、京子さんの口から兄貴の話が出たら嫉妬してたもんだけど、今はそれほどじゃない。
「見ると、頑張らなきゃって気になるから朝日は好きじゃないんだって」
「なんだそりゃ」
「でも、夕日は、もう休んでいいよって言われてる気になるから、好きなんだって」
なんか情けない話だ。何でも楽々とこなしているように見えた兄貴に、そんな弱い一面があったなんて知らなかった。
「兄貴がそんな弱気なこと言ってたの?」
「そうよ」
京子さんは笑った。
「きっと、ずいぶん気を張ってたんじゃないの。周りが、究くんはすごいっていうもんだから、きっと無理してたんだわ。あの人」
「そうかもね」
俺は夕日を見ながら言った。まるで、海に溶け込んでいくように見える。もう少ししたら、完全に海の向こうに隠れてしまうだろう。
兄貴は、そんなこと京子さんに言ってたんか。
「究くん、きっとおはようじゃなくて、おやすみが好きだったのね」
「情けねえ」
でも、優しい声で俺は言った。夕日は不思議だ。見ていると、優しい気持ちになれる。
遠く6マイルの彼女 P96
遠く6マイルの彼女を読みました。ヤマグチノボルの代表作はゼロの使い魔ですが、
個人的には「描きかけのラブレター」が好きで、同じ日立市を舞台にした2作目を、
読んでみました。面白かったです。ちなみに、これを含め日立三部作らしいですが、
3作目は未発表だそうです。いつか読めるといいな。手術の成功を心から祈っております。
劣等感とバイクと片思いの話。
2011/07/24 9:05:17
- 作者: ヤマグチノボル,松本規之
- 出版社/メーカー: 富士見書房
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