人間の土地

職業飛行士としての劇的な体験をふまえながら、人間本然の姿を星星や地球の間に探し、現代人に生活と行動の指針を与える。

定期航空と僚友と砂漠と死と奴隷と人間、などの話。各きわめて興味深いエピソードから引き出される人間本質の探究。
訳者の堀口大学のあとがきを先に読んでもよかったかもしれない。推理小説じゃないんだし、ネタバレと言うこともないし。次からこういうエッセイ?じみたものを読むときはそうすることにしよう。
あと宮崎駿が"空のいけにえ"というタイトルで最後に、進歩とか速度とかについてなにやら書いてあった。本文を読んでいて宮崎作品を思い描いたのは一度ではなかった。空飛ぶ飛行機の話では紅の豚が、奴隷の話ではシュナの旅を想起した。

人間というのは、障害物に対して戦う場合に、はじめて実力を発揮するものなのだ。最も障害物を征服するには、人間に、道具が必要だ。P7

サン=テグジュペリとっての飛行機とは、人間として未解決の問題に参加する道具であったらしい。
飛行機が今ほどの安全を与えてくれない時代、雲海の下は死の永劫として横たわり、僚友たちは職務上の秩序のように死んでゆく。真の贅沢とは一つしかない、人間関係の贅沢。人間であるということは、自分の石をそこに据えながら、世界の建設に加担していると感じること。
無関心と個人主義の蔓延った現代(というか僕)からするとずいぶんと勇ましくも思える。
当時の飛行機は安全でなかった代わりに自由ではあったのではないかと思える。曲がりくねった"道"に対して飛行機は場所と場所を直線で繋ぐと書いてある。今は軍事施設の上は通っちゃいけないとかいろいろ細かい規定があって、直線とはいかないんじゃないかな。
サハラ砂漠の真っ只中に不時着遭難し、飢えと疲労に打克って三日後奇跡的な生還を遂げたテグジュペリが知りえた事を僕が簡単に学び取れるとは思えないが常にそういう姿勢を持つ事が大切だと思う。そうしないと人類は前には進めないから。

ぼくの目に、きみは気高さと親切に満ちあふれて映る。水を与える力を持った王者よ、あらゆるぼくの友が、あらゆるぼくの敵が、きみを通ってぼくの方へ向かってくる、ためにぼくにはもはや一人の敵もこの世界に存在しなくなる。P200

ブギーポップ・リターンズVSイマジネーター (Part 2)のP261にも引用されている文言。
好きな言葉。不遜な所が良い。
しかし人間は矛盾を抱えた生き物でありすべての敵はすべての味方でありその逆もまた然りに思える。

また経験は僕らに教えてくれる、愛するということは、お互いに顔を見合うことではなくて、一緒に同じ方向を見ることだと。P216

Intermezzo さんから、晩年の作品『戦う操縦士』も良いと勧めて頂いたのでそれも読む。

人間の土地 (新潮文庫)

人間の土地 (新潮文庫)