一九八四年

一九八四年 (1950年)

一九八四年 (1950年)

一九八四年 (1950年)
戦争は平和なり
自由は隷属なり
無知こそ力なりP9

政府の前期硬を分掌する4つの省がこの中におかれていた。真理省は、報道、娯楽、教育、美術を扱っていた。平和賞は戦争を扱い、愛情省は法律と秩序の維持にあたった。豊富省というのは経済問題に対して責任を持っていた。これら4つの省の名称は、新語で言うと、「ミニトルー」「ミニパックス」「ミニラブ」「ミニプレンティ」であった。P10

彼女は年のころ27歳くらいの輪郭の際立った女で、豊かな黒ずんだ髪の毛と、そばかすだらけの顔と、すばしこい、運動化のような身のこなし方をしていた。青年反性連盟の標章である幅の狭い真紅の帯が、彼女の仕事衣の腰まわりに幾重にも巻きつけられていたが、それは彼女のお尻の曲線を目立たせるだけ十分にきっちり結ばれていた。ウィンストンは彼女を初めて見たその瞬間から彼女が気に食わなかった。その理由は彼には良くわかっていた。それは彼女がいつも身の回りにひけらかしている、ホッケー場や冷水浴場や共同体ハイキングやそのほか一般の精神的潔白さを思わせる雰囲気のせいだった。彼はほとんど全ての女性、とりわけきれいな女を好まなかった。P17

彼が彼女を憎んだのは、彼女が若く、美しく、性を持たなかったからであり、彼が彼女とともに床に入ることを欲しながら絶対にそうする望みがなかったからであり、あなたの腕で抱いてくれと求めているように思われる彼女のやさしくたわやかな腰のまわりには、純潔の戦闘的なシンボルであるところの、いまわしい真紅の帯しか巻いていなかったからである。

党のスローガンにはこう書いてあった‐「過去を管理するものは未来をも管理する。現在を管理するものは過去をも管理する」P48

「新語の全目標が思想の範囲を狭めることにある、というのが君にはわからないかね? 仕舞いには、思想犯罪というものを文字通り不可能にしてしまうんだよ。そういう犯罪内容を持つ言葉が全くなくなってしまうんだからね。P68

「わたしたちは、やがて闇の全くないところで会いましょう」といった。それは非常におだやかに、ほとんど何気なく言われたこと。ただの挨拶であって命令というのではなかった。

イングソックの神聖な諸原理。新語と二重思考と過去の可変性。彼は海底の森の中をさ迷っているかのような、彼自身が怪物であるところの怪奇な世界迷いこんでいるかのような感じだった。彼は独りぼっちだった。過去は死んでおり、未来は想像を絶していた。

しかし、この目標のあとの部分は彼にもわかっていた。寒冷紗の袖をつけた監督(ビショップ)とか、白貂の毛皮の法服をつけた裁判官とか、××・手枷・足枷・踏み車・九尾猫鞭とか、ロンドン市長の饗宴とか、法王の足指に接吻する習慣といったものが列挙されるのだろう。それに「初夜権(ユス・プリマイ・ノクティス)」と呼ばれるものもあったが〜P94

私はあなたを愛していますP139

しかしいよいよ別れるという時になっても、二人はまだ群集にかこまれていたが、彼女の手は彼の手を探って、はっと思う間に彼の手をぐっと強く握ってはなしたP150

「いいかい。君が今まで相手にした男の数が多ければ多いほど、僕は君が好きになるんだ。この気持ちがわかるかい?」
「ええ、ようくわかるわ」
「僕は純潔がきらいなんだ、善良なことがきらいなんだ、美徳なんて点でどこにもないといいと思うんだ。僕は誰も彼もが骨のずいまでくさればいいと思うんだよ」
「私はあんたにちょうどおあつらいむきよ。私は骨の中までくさってるんだから」
「君はこんなことをするのが好きなのかい? 僕のいうのは、ただ僕とだけという意味じゃないんだ。つまり、このこと自体が好きかというんだよ」
「私好きよ」P161

時計の針は7時20分をさしていたが、ほんとは19時20分だった。彼女は19時30分にここに来ることになっていた。P175

彼女はプロレタリア地区のどこかの店にこっそり入り込んで、自分で化粧道具一式そろったのを買ったに違いなかった。彼女の唇は真赤に染められ、頬には紅をつけ、鼻にはおしろいがはいてあった。また目を一段とばっちりさせるため、目の下になにか一つけしていた。大して上手な化粧ではなかったが、こういうことに対するウィンストンの標準は高くなかった。彼は党の女が自分の顔を化粧するのを一度も見たこともなかったし、想像したこともなかった。P182

戦うための何等重大な原因のない、何等純粋のイデオロギー上の相違を持たない交戦国の間で戦われる、目的の小さく限られた戦争なのだ。だからといって、戦闘行為や戦争に対する一般的の態度が、以前より残忍性が少なく、もっと騎士道的になったというのでもない。反対に戦争に対する病的な激昂は、各国とも絶え間なく全編的にいきわたり、強姦、略奪、児童の虐殺、全国民の奴隷化、ゆで殺しや生き埋めにまで及ぶ捕虜に対する報復のような行為は当たり前のことと見られ、それらが敵の手でなく、味方の手で行われる場合は、功績とみなされるのである。P234

過去の時代においては、戦争とは遅かれ早かれ、普通の場合勝敗が明白について終わるものであるということに相場が決まっていた。過去においては戦争は人間社会が物質的な現実と接触を保つ主な手段の1つであった、全ての時代の全ての支配者たちは、彼らの進化に対して偽りの世界観を押し付けようと努力してきたが、しかし彼らには、軍事的能率をわずらう傾向のあるような錯覚を奨励する余裕などはなかった、敗北が独立を失うことか、あるいは一般に好ましくないと思われているなにか他の結果を意味する限るは、敗北に対する警戒は真勅でなければらなかった。P246

ほんとに永久となった平和は、永久の戦争と同じことであろう、このことは‐党員の大多数のものはこれをかなり浅い意味でしか理解していないが‐党の標語「戦争は平和なり」の最も深遠な意味なのである。・・・
・・・最良の書とは、読者の既に知っていることを語るものであることが彼にはわかった。P248

テレヴィジョンの発達と、同一の器械で、同時に受信発信ができる技術的進歩によって、個人の私生活は終わりをつけた。全ての市民、否少なくとも監視するだけの価値のある重要な市民は、1日24時間、警察の監視下に置くことができ、他の通信の道は全部塞いで、政府の宣伝の声だけ聞かすことができた。国家の意思に対する完全な服従ばかりでなく、あらゆる問題に関する意見の完全な画一を実施する可能性がここに始めて存在することになった。P255

この鍛錬のうちで、年少の児童たちにも教えられる最初の最も簡単な程度のものは、新語でクライムストップといわれている。この犯罪停止とはいかなる危険にぶつかっても、その一歩手前において、まるで本能的にパッと踏みとどまってしまう能力のことをいうのである。そのうちには、類推を理解する能力のないこと、論理的の過ちを認める能力のないこと、イングソックにとって不利になりそうな場合は、最も単純な議論で誤解する能力を持つこと、異端的な方向へ導かれる一連の思想には、退屈を感じてこれをはねつけることなどが含まれている。P262

党の本質的な行動は、一方に完全な正直と並行する強固な目的を保持しながら、意識して欺瞞の手段を用いることであるから、二重思考はイングソックの正しい中心に位するものなのである。一方でそれらを心から信じながら、わざと嘘をつくこと、都合の悪くなった事実は何でも忘れること、それからそれがまた必要になれば、ちょうど必要な機関だけ忘却の淵からそれを引き出してくること、客観的現実の存在を否定すること、そしてその間ずっと人の否定する現実を考慮にいれることー全てこれらのことは絶対に欠くことのできないほど必要なのである。二重思考という言葉を使うときにさえも二重思考を働かすことが必要である。P264

ここで初めてわれわれは中心的な秘密に到達するのだ。既にわかったように、党の神秘性、とりわけない舞踏の神秘性は二重思考に基づいているのである。しかしそれよりもっと深いところに、本当の同意ーまず最初政権の掌握を導き出し、その後二重思考、思想警察、絶え間ない戦争、その他必要な付属品などを生み出すに至った絶対不問の本能が横たわっているのだ。この動機は実に……P267

「君はおぼえているかね?」と彼はきいた。「最初の日、あの森のはずれで僕達に歌ってくれたつぐみのことを」
「あれは私たちのために歌っていたんじゃないのよ」とデューリアはいった。「あれは自分の楽しみに歌っていたのよ。いえ、そうでもないの。ただわけもなく歌っていただけよ」P272

「それなら、過去は存在するとしても、それはどこにあるのかね?」
「記録にです。過去のことは記録されます」
「それから精神に。人間の記憶に」
「記憶に。なら、よろしい。われわれ、わが党は、一切の記録と、全ての人間の記憶とを、思うようにすることができる。それならばわれわれは、過去を統制していることにならないだろうか?」P307

「偉大な兄弟というのは実在の人物なのですか?」
「勿論、実在の人物だ。党も実際に存在している。偉大な兄弟は党の顕現なのだ」
「しかし偉大な兄弟は、私が存在しているのと同じ意味で、実際に存在しているのですか?」
「お前は存在していない」とオブライアンが言った。P321

「人間が別の人間に対して自分の権力を示すには、どうすればいいのかね?」
ウェンストンは考えた。「その片方の人間を苦しめるのです」と彼は答えた。P331

「お前は神を信じるのか?」
「いいえ」
「それならば、その、われわれを敗北させる原理というのはなんなのだ?」
「私にはわかりません。人間の精神です」
「それでお前は、自分が人間だと思っているのか?」
「思っています」
「もしお前が人間ならば、お前は最後の人間なのだ。お前が属していた種族は滅びて、われわれがその後継者たちなのだ。お前には、お前一人きりになったのだということがわかるか? お前は歴史の外に置かれていて、もう存在していないのだ」P335

「お前は負けたのだ。われわれはお前を完全に負かしたのだ。お前は今、お前の体がどんなになっているか見ただろう。お前の頭だって同じことなのだ。お前には自尊心も、もうあまり残っていないはずだ。お前は蹴られて、罵倒されて、痛い目にあって泣き喚きもするし、自分の血とげろの中にのた打ち回ったりもした。お前はわれわれに縋りついて助けてくれと哀願したし、誰も彼もを、また何もかもを裏切った。これでまだお前に加えられない侮辱がなにか一つでも残っていると思うかね?」
ウェンストンは、まだ眼から涙が流れていたが、啜り泣きを止めてオブライアンの顔を見上げた。
「私はデューリアを裏切らなかった」と彼は言った。
オブライアンはまじめな顔つきになってウェンストンを見返した。
「そうだ」と彼は言った、「それは本当だ。お前はデューリアを裏切らなかった」P339

「私はいつ銃殺されるのです?とウェストンは聞いた。「まだだいぶ時間がかかるかもしれない」とオブライアンが答えた、
「お前の場合は問題が複雑なのだ。しかし希望を失ってはいけない。誰でもいつかは全開するものだ。お前もいつかは銃殺されるだろう。P340

彼は向こうの壁の巨大な顔を見上げた。その黒い口髭に隠された微笑がどんな意味を持つものか知るのに、彼は40年かかったのだ。おお、むごい、不必要な誤解よ! 愛に満ち溢れた胸からの、かたくなな、自業自得の離反よ! 二筋のヂン臭い涙が、彼の鼻の両側を伝わっていった。これでよかった、全て良かった。長い間の苦悩は終わったのだ。彼はついに自身に打ち克ったのだった。彼は偉大な兄弟を愛していた。P368




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1984年 (小説) - Wikipedia