新訳 星の王子さま

小さな王子様と星と赤い花の物語。
予告めいたことを云ってしまいましたが、その時点では訳者の倉橋由美子さんがこの本が発行される一ヶ月前に亡くなられていることを知りませんでした。
一読者としてこの小説に出会えたことに感謝し、つつしんでご冥福をお祈りいたします。


読み終わってみると素敵な物語だった。
「私」と挿し絵を通して、「王子さま」と見る風景は、どれも星の光に包まれて美しく輝いている。「私」と「王子さま」の会話は悲しい思い出として記憶され、胸の奥にそっとしまわれる。
また読みたい、と思う。
「喜劇は大衆に親しまれ、悲劇は神話となる」という言葉があった気がしたが、この悲しい物語は確かに神話のようなの力を持つ。だからこそ<全世界で「聖書」の次に読まれている>作品となったのだろう。


しかし読んでいるとき感じることは違う。
そこで語られるのは「自分」という身に帰って考えさせられる話だ。
「大人」と「反大人」の図式の中で、「自分はどうなのか」ということだ。
読者は繰り返して伝えられる言葉、特別な響きを持つ科白に耳をそばだて、注意深く文章を追うようになる。


訳者の云うように、この物語が子供向けではなく大人向けであることは間違いないだろう。
でももちろん、未熟なわたしのように精神的に子供であれ、年齢的に子供であれ、一度読んだらとりこになるし、訳者の推奨する診断ツールとしての使い方でなくても、読んで感動して大量の涙を流すという「ちょっと変わった読み方」でもわたしは全くかまわないと思う。

新訳 星の王子さま

新訳 星の王子さま